足立慎吾 特別監修「アスナ 1/8スケール ジオラマフィギュア」を紐解く。
Special Interview

アニメキャラクターデザイン・総作画監督:足立慎吾
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フィギュアディレクター木村輝彦 インタビュー

今まで数々のフィギュア企画が生まれてきた「ソードアート・オンライン」シリーズ。
その中でも一線を画す成り立ちとなった「アスナ 1/8スケール ジオラマフィギュア」が生まれるまでのストーリーを、
アニメキャラクターデザイン・総作画監督:足立慎吾氏、フィギュアディレクター木村輝彦氏にたっぷりと伺いました。






せっかく作るならファンの方にいちばん喜んでもらえるものにしたいと


――「アスナ 1/8スケール ジオラマフィギュア」(以下、「1/8アスナ」)は、足立さんの完全監修により、これまでにないハイクオリティを実現しています。この企画がスタートしたのは、もう2年ほど前になるそうですね。

木村 はい。そもそもは、『ソードアート・オンライン』(以下、『SAO』)シリーズのプロデューサーである柏田(真一郎)プロデューサーと「アニプレックス オンライン」(以下、アニプレックス オンライン)で、『SAO』の新フィギュア企画を2015年の7月に立ち上げたのが最初です。キャラクターデザイナーの足立さんの全面協力を得て、今までにない、クオリティの高い公式フィギュアを作ろうと。
足立 そうでしたね。ただ……せっかくフィギュア制作について、こういう場を設けていただけたので、今だから言える裏話をしてしまうと、『SAO』の公式フィギュアを作りたいという話は、じつはその1年くらい前に柏田Pから相談されていたんですよ。TVシリーズ第2期の打ち上げの席で。ところが、それから一切、続報がなくて。『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(以下、『SAO OS』)の企画が本格的に動き出そうというときに、「そういえば、ずいぶん前に言ってたフィギュアの話ってどうなりました?」と柏田Pに改めて聞いたら、急に動き始めた印象がありますね(笑)
木村 じつはこちらでもフィギュア製作のタイミングを見計らっていて、『SAO OS』のお話しを聞いて、本格的に動き出した感じではあります。当時、柏田Pから足立さんに最初にお話がいったときは、まだ誰のフィギュアにしたらいいかも決まっていなくて、せっかく作るならファンの方にいちばん喜んでもらえるものにしたいと、2015年の9~10月上旬にアニプレックス オンラインに特設ページを設けて、『SAO』フィギュア化希望アンケートを実施したりもしたんですよ。その結果を受けて、改めて足立さんを交えたミーティングをさせていただいたので、急に動き出した感じがあったのではないかと思います(苦笑)


――2015年秋に、頂上会議が開かれたわけですね。

木村 はい。阿佐ヶ谷で焼肉ミーティングを(笑)
足立 そう、ご飯を食べながらね(笑)
木村 今回のフィギュア企画は、まずイラストを足立さんに描き下ろしていただき、それを忠実に再現するのが大前提でした。そこから製作過程も入念にチェックしていただき、真の意味での完全監修をしていただきたいことをお伝えして……通常のフィギュア製作以上に手間暇はかかりますが、ぜひお願いしたい!と口説き落としたんです。


――新規イラストを描き起こし、製作工程を逐一チェックしてフィギュアを製作する例は、まれなんでしょうか?

木村 作品やメーカーにもよると思いますが、大抵は原型師の方とのやりとりが主で、ある程度完成させてから監修を受ける場合が多いと思います。
足立 そうですね。僕はそれほどフィギュア監修の経験はないのですが、過去いくつか経験したなかでも、今回のようなゼロからの作り方は初めて。正直、大変な企画だなとは思いましたが、僕もフィギュアを眺めるのは好きですし、『SAO』もプライズフィギュアを筆頭にたくさん種類は発売されていますが、ここまで本格的なフィギュアはなかなかなかった。「自分だったらこういうのが欲しい」というものを、しっかり作っていただけるのは嬉しいことなので、頑張りがいもある。前向きに取り組ませてもらうことに決めました。


『SAO OS』本編には出てこなかったけど、アスナが単独でバトルに参加していてもおかしくはない。
おそらく、ボスキャラとの戦いの前には、こんなシーンもあったのではないか?


――そして2015年末あたりから、足立さんの「1/8アスナ」のイラスト執筆がスタートしたんですね?

足立 それが、最初はアスナじゃなかったんですよね。

――そうなんですか!?

木村 はい、じつは。これも今だから話せるエピソードで。例のアンケートの最上位にもちろんアスナはいたんですが、最初は別のキャラクターで作業を進めていただいていました。
足立 そうなんですよ。2016年の2月には、一度、そっちでラフ案を描いたんですが、凝り過ぎちゃったのか、ちょっとこのままでは実現が難しいとペンディングされまして(苦笑)
木村 という背景がありつつ、せっかく『SAO OS』の公開もあるので、そちらと連動させたアスナのフィギュアを先に進めようという話になって、改めて今の「1/8アスナ」の原画ラフを、去年の6月に上げていただきました。それを元にプロトタイプとなる原型を作り、足立さんに原型に修正を入れていただきながら、イラストのほうもより細密に清書していただいて、再びそれを元にフィギュアの細部を詰めていきました。


――今、さらっとおっしゃったペンディングされている別キャラクターというのも、非常に気になりますが……。

木村 その件は、また後ほど詳しくお話します(笑)

――分かりました(笑)。では、「1/8アスナ」に話を戻しますが、そもそも足立さんは原画をどういうテーマで描き始められたんですか?

足立 まず最初にあったのは、ただキャラクターが単体でポーズを取るものではなく、背景オブジェクトと一緒にシチュエーションやストーリーが感じられるジオラマタイプをやりたいと思っていました。僕自身も、そういうフィギュアが好きなので。

――そのシチュエーションは、実際の『SAO OS』には出てこない、オリジナル情景になりました。

足立 はい、描いていったら自然とそうなった感じではあるんですけど(笑)。『SAO OS』のストーリー的にも、キリトは「オーディナル・スケール」をプレイすることに乗り気じゃなかった。『SAO OS』本編には出てこなかったけど、アスナが単独でバトルに参加していてもおかしくはない。おそらく、ボスキャラとの戦いの前には、こんなシーンもあったのではないか? 単独で経験値稼ぎをしていたのではないか? と想像しました。



――現在、アニプレで公開されている「1/8アスナ」は、まさに足立さんがおっしゃるように、アスナが本当にこういうバトルを繰り広げていただろうとリアルに感じられる、非常に躍動感のある造型が魅力です。足立さんご自身は、アニメキャラクターがフィギュアになることの良さはどこにあるとお思いですか?

足立 やはり、立体であることの説得力と存在感ですね。アニメーターの立場からいうと、手描きアニメも回り込みの演出などを駆使して3D表現はできますが、空間把握能力の高いアニメーターとそうじゃない人では、映像にとても差が出てしまう。僕もそんなに得意なほうではないので、2次元として生み出されたキャラクターが立体となり、どんな角度からも破綻のない状態で見られること自体が、素晴らしいと思うんです。僕もコレクションするほどではないですが、フィギュアの写真を眺めたり、気に入ったものは買ったりしますし。

――買われることもあるんですね。

足立 はい、たまには。買ったら満足しちゃうタイプなので、愛でまくりはしないんですけど(笑)

――美しい造形物がお好きなんですね。




動きの中の一瞬を捉えて、前後のシーンや周囲の情景を思い描けるものにしたかったんです。


足立 一般的にフィギュアというと、いわゆる“キメポーズ”のキャラクターが多いじゃないですか。前後のベクトルを感じさせるフィギュアは少ない。僕もそういうのが嫌いではないですが、アクションシーンの多い『SAO』でハイクオリティのフィギュアを作れるなら、動きの中の一瞬を捉えて、前後のシーンや周囲の情景を思い描けるものにしたかったんです。

――そのコンセプトを貫くために、原画でこだわったポイントがいくつもあると思いますが。

足立 ロングヘアのアスナらしい、髪の毛が複雑にばらついている感じはぜひ表現したかったですね。あとは……ワキですね。ワキを見せたかった(笑)
木村 敵の攻撃にあって、コスチュームがダメージを受けたことで生身の肌が見えているという表現ですね。




足立 『SAO OS』内では、ご覧になっている方はよくご存じだと思いますが、劇中でアスナのコスチュームが破けて肌が見える表現というのはない。このフィギュアだけのお楽しみが欲しかったんですね。
木村 ワキの下には足立さんも細かくこだわってらっしゃいましたね。
足立 このポーズは、敵に斬り付けた反動で腕が跳ね上った瞬間を切り取ったもの。だから、ワキの下、胸の横の筋肉が後ろに引っ張られているんです。その感じ……とくに肋骨の下の部分ですとか、ワキが上に引っ張られたときの筋肉の感じをリアルに見せたかった。切り裂かれた洋服と肌の間の微妙な“浮き”加減にもこだわっていただきました。欲を言えば……真正面からもワキの筋肉が見えるように、もうちょっと服の裂け目は大きくても良かったかな?(笑)
木村 というご要望もいただいてはいたんですが……胸のラインが見えるか見えないかのチラ見せのほうが、アスナにはふさわしいんじゃないかということで(苦笑)。服のダメージという点では、タイツの裂け具合もこだわったポイントですね。これもかなり試行錯誤がありました。タイツと言っても、アスナが履いているのはアスリートが身につけているようなスポーツタイツなんです。肌が透けないそれなりの厚みがありながらも、あまり分厚くてもおかしいんですよ。なので、タイツの裂け目と肌との接触面の厚みは、ギリギリまで薄さを追求したくて、原型師の方とも何度もやりとりをして決めていきました。陰影や戦闘シーンでのダメージを演出するためにグラデーションも入っています。
足立 タイツは薄いほうが色気は出るんですけど、やり過ぎると品がなくなる。僕自身、多少の厚みがあったほうが好きですし、『SAO』は健全な作品なので、こだわりました。






バシンとワームの先がアスナめがけて地面に叩きつけられて、それをアスナが切り刻む。
地面からは土煙が上がり、斬られた断面から体液が吹き出している……


――そのアスナが戦っている敵も、このフィギュアでだけ見られるオリジナルモンスターだそうですね?

足立 はい。ジオラマとしては当然、アスナがメインなので、モンスターの全身を描くわけにはいかないんですが、敵にも躍動感は欲しい。それを表現するには、一部分でも派手な動きが感じられるワームがいいんじゃないかと思い、ジオラマとしてより情景が魅力的なシーンをイメージしました。バシンとワームの先がアスナめがけて地面に叩きつけられて、それをアスナが切り刻む。地面からは土煙が上がり、斬られた断面から体液が吹き出している……という場面です。




――本製品の表現には、様々なこだわりが詰め込まれていることは、ここまでのお話でも十分に理解できますが、とくに苦労された部分、時間をかけて追求した部分を改めて挙げていただくと?

木村 フィギュアのクオリティを感じさせる重要なポイント“顔”については、粗原型が出来上がった段階で、足立さんからも相当細かな修正を入れていただきました。
足立 まずは顔の大きさとパーツのバランスですね。「アゴはもう少し短く」ですとか、「瞳から耳の奥に至る奥行きを豊かにしないと、顔が平べったく見えてしまう」とか。僕がフィギュアを見るときに感じていた不満点がなくなるよう、細かいことは言わせてもらいました。特にこだわったのは鼻の高さです。
木村 そうでしたね。“足立フェイス”の可愛らしさを表現するのに、鼻は重要なパーツ。どこから見ても可愛いアスナですが、今回はとくに横顔もとても魅力的です。
足立 僕も絵を描くときは、横顔はとくに注意してるんです。でも最初の原型を見せていただいた際、ほとんどイメージ通りに完成していて、第一印象から「うわ~、すげえ」と思ったのが印象的でした。難しいと思っていた髪の毛の立体表現もすでに完璧でしたし。だから、僕があえて口を出せるところは、もう顔くらいしかなかったんですね(笑)




――そもそも、キャラクターフィギュア制作の際に、キャラクターデザイナー自身が監修だけでなく、原型用のイラストを描き下ろすこと自体が珍しいですよね?

木村 はい。そうなんです!アニプレックス オンラインだからこそ実現出来たのではないか、と自負しています。
足立 『SAO』に限らず、アニプレックス オンラインさんが作る自社作品のフィギュアのクオリティが高いことは、我々も十二分に感じています。最近では『四月は君の嘘』のフィギュア(宮園かをり フィギュア 私服Ver. ~有馬公生との出会い~ 1/8スケール)も素晴らしいと思っていたら、それも木村さんのプロデュースで同じ原型製作会社が手がけている。原型師さんの優秀さも分かっていたので、全幅の信頼をおいてお任せしました。実際、僕は木村さんを介しての作業しかしていませんが、今回の「1/8アスナ」の原型師さんは、じつは女性の方らしいですね?
木村 はい、とても情熱を持って取り組んでいただいてます。



買った人だけにじっくりと楽しんでいただきたい。


――女性キャラクターのフィギュアなので、女性原型師ならではの繊細なこだわりもあったのでは?

木村 ありますね。とくに、肌が露出しているところの肉付き感に関しては、女性的な感性が非常に反映されていると思います。男性だとタレントさんのグラビアなどを参考にした想像の産物になるので、どうしても胸を実際以上にふくよかになりがちだったりしますから(笑)
足立 自分の理想を込めちゃうんですね、きっと(笑)
木村 なので、「1/8アスナ」は自然な女性体型が意識されているので、とても繊細なバランスを実現できました。また、原型師さんとじっくり詰めていったパーツのひとつとして“臀部”もあります。今、アニプレックス オンラインの購入ページに掲載している写真には、アスナを真後ろから写しているカットは一切ないんですよ。その理由は、脚元の躍動感は、買った人だけにじっくりと楽しんでいただきたかったからです。
足立 この絶妙なヒップラインを。
木村 そうなんです。そこも相当こだわっていまして。よく覗いて見ていただくと、スカートが翻っている下の部分、タイツの付け根のディテールも細かく表現しています。コスチュームの細かさでいえば、手袋の微妙な長さも足立さんのこだわりを十分に反映させていただきましたし、武器であるレイピアも来年みなさんのお手元に届く完成版では、よりブラッシュアップされる予定です。繊細なパーツですので、より完成度を高めたいと。楽しみにお待ちいただきたいです。




――ワームが撃ち付けられている台座部分も、細かい情景表現が魅力です。

足立 そう、自分で描いたイラストながら、コンクリートの割れた表現や鉄骨がはみ出している様子、土煙も、すごく細かく仕上げていただいて。台座だけでも見ていて飽きない。どうやって作り込んだんですか?




木村 建造中の建物の工事写真を用意したり、土煙の表現を高めるために、『SAO』だけでなくいろいろなアニメーションから似たシーンを抽出して分析し、原型師さんに参考にしてもらいました。土煙はクリア樹脂で作って彩色を施し、透明感を演出しています。



足立 実物で見ると、中に光が入っているように見える。そこもすごいなぁと。アニプレックス オンラインオフィシャルで、フットライトが付いた、360度回しながら鑑賞できる台座をオプション化できません?(笑)
木村 それはいいですね。検討させていただきます!(笑)
足立 やっぱり、ここまで作り込まれていると、後ろ姿も舐めるように見たいですからね(笑)。ちなみに、ここだけの話ですけど、スカートのスリット部分は、アニメの設定上は下にインナーとして布が付いてるんですよ。でも、それではフィギュアにしたときに抜け感がなくなるので、あえて取らせてもらったんです。


――フィギュアならではの改変ですね。

足立 そうすると、スリットの隙間から腿を鑑賞できる。ここが重要(笑)。がっしりした腰から伸びる細い脚は、じっくり見てほしかったポイントです。原型師さんの仕事の素晴らしさが、とてもよく表れていると思います。
木村 そのあたりのポイントも、購入特典である足立さんのメッセージ付き原画イラスト色紙と並べて鑑賞いただけたらと思います。


――そして、最初に木村さんから、アスナ以外にも足立さんの原画イラストが存在したという爆弾発言がありましたが、もしかして今後……?

木村 はい。足立さんとのコラボフィギュアをシリーズ化して、第2弾も出来たらと考えています。
足立 そう、さっき言ってたペンディングになっている題材もありますし。
木村 改めて足立さんとご相談し、『SAO OS』という1作品にこだわらず、『SAO』ファンのみなさんに喜んでいただけるものを、いい形でお届けできればと思います。
足立 僕も、せっかくのフィギュアシリーズなので、『SAO』シリーズを抱えるアニプレックス、アニプレックス オンラインだからこそできるものを作りたい。まずは「1/8アスナ」を、存分に可愛がっていただけたら嬉しいです。


Post date : 06/11/2017
interview & text : Mika Abe






Profile

足立 慎吾(あだち しんご)
「ソードアート・オンライン」シリーズ アニメキャラクターデザイン・総作画監督。
主な作品に『WORKING!!』、『ガリレイドンナ』など。


木村 輝彦(きむら てるひこ)
フィギュアディレクター



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