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Special Interview

監督 伊藤智彦 × 原作 川原 礫 インタビュー <#2>


2017年2月18日に全国公開となった『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』。日本のみならず世界各国で多くの人々を魅了したこの作品が遂に2017年9月27日Blu-ray/DVD化。そのBlu-ray/DVDのANIPLEX+購入特典「ミニファンブック」用に新規録り下ろしされた伊藤智彦監督の対談シリーズの続編ともなる、川原礫 先生との対談<#2>及び、柏田真一郎プロデューサーとの対談を、特別にWEBでも掲載致します。
※伊藤監督と川原先生との対談<#1>及びLiSAさんとの対談は、ANIPLEX+のBlu-ray/DVD購入特典「ミニファンブック」にてご覧いただけます。


観て良かったと思うものを作らなきゃならないんだ


――『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(以下、『SAO OS』)がいよいよパッケージ版のリリースを迎えます。今だから話せる濃い制作秘話は、特典ブックレットのほうで大いに語っていただいたんですが、おふたりが顔を揃えられるのはレアな機会なので、こちらではまた別のお話を伺わせてください。本作は2017年2月18日に劇場公開、大変なロングヒットを続けましたが、おふたりはどう感じられましたか?

川原先生 正直、驚いていましたね。TVシリーズが長く続いて、劇場版が作られることだけでもすごいのに、最初、アニプレさんは「興収目標は20億」とおっしゃっていると聞いて……「おいっ!」と(笑)
伊藤監督 無茶な目標立てたなと思いますよね?(苦笑)
川原先生 僕は、制作側が自分からハードル上げてしまうのは、絶対にやめたほうがいいと思ってる派なので(苦笑)。作品にもちろん自信はありますが、映画の公開前にスタッフが自ら「大傑作」「大ヒットする」と言ってしまうと、責任が重くなりすぎる。なので、20億という興収目標を聞いた時は、「半分にしたほうがいんじゃない?」って思ってました。目標は目標だし、何かあっても最終的な責任をとるのは僕ではないんですけど、それでもプレッシャーは感じますからね。





――伊藤監督こそ、そのプレッシャーの最前線に立たれるわけですが。

伊藤監督 そうですね(苦笑)。でも、目標は高いに越したことはない。目標が高ければ、それに届くように頑張ろうと思いますし、現場でもスタッフに、お客さんが1800円払っても観たい、観て良かったと思うものを作らなきゃならないんだということは、ことあるごとに言ってました。映像としてのクオリティも、映画にふさわしいものにしなくてはならないですから、TVシリーズと劇場版では、意識的に作り方は変わりますね。
川原先生 まあ、劇場版アニメは昨年の超ヒット作以来、ハードルがますます上がりましたしね。以前よりも“劇場向き”というキーワードが力を持つようになってきている感覚は、業界全体にありますよね。しばらくは、アニメもまず劇場版だ、みたいな時代なのかなと。
伊藤監督 そうですね。従来のアニメ業界以外からのアプローチも多くなりつつありますから、少なくとも東京オリンピックくらいまでは、劇場版アニメが注目される時代が続きそうですね。



目標値にプレッシャーを感じていただけに、ホッとしました(笑)


――そんな川原さんの懸念を打ち破るように、『SAO OS』公開後は目標を大きく上回り、国内観客動員数は175万人、興行収入25億円を突破。北米、アジア、ヨーロッパなど海外を含めた全世界累計観客動員数275万人、興行収入33.5億円を突破する大ヒットになりました。(※2017年9月14日時点)

川原先生 噂に聞きましたが、国内の上半期邦画ランキングでも、錚々たるファミリー向けの大作アニメに次いで、上位に入ったそうで。目標値にプレッシャーを感じていただけに、ホッとしました(笑)。コアな『SAO』ファンの方の反応も予想以上に良かったと感じています。
伊藤監督 9月15日からは、中国での公開も始まりますからね。
川原先生 それも無事にいきそうで、良かったなと。じつは最初は、ゴールデンウィーク頃の予定と聞いていたんですが、延びていくので……パッケージ版の発売前に間に合って安心しました。


――中国で劇場公開されるアニメ映画というのは?

川原先生 そもそも枠が少ないですよね?
伊藤監督 そうですね。細かい話は分からないんですが、外国映画の枠は決まってるので、まずそれが取れるかどうかが難しいようです。逆に言えば、世界でも日本くらいではないですかね、国内映画を手厚く守っていない国は(苦笑)。だから実写もオリジナルが少なくて、動員が読める原作付き映画が増えてしまう。映画業界人は、みなさんそう思ってるんじゃないでしょうか。もっと手厚く守って頂きたい!個人的には、中国でこの作品がどう受け止められるか、楽しみですが。


――LiSAさんもそのために、中国語バージョンの主題歌「Catch the Moment」をレコーディングされたそうですから、日本のファンも気になるところですね。






外国の方からは、「人の日記を読むと殺されるぞ!」という話をよくされました(笑)
あんなことは許されないと。


――既に公開済みの英語圏でも『SAO』の知名度はかなり高いですが、『OS』で日本のファンが喜ぶシーンと英語圏で喜ばれるシーンに、違いがあったりはしますか?

川原先生 そうですね。観客のリアクションを見ていると、「そこで笑うの?」というところが、けっこうあります。例えば、キリトくんが自販機をぶん殴るところ。シノンに「なにか飲むか?」と言うシーンがありますが、海外はそこで大爆笑だったんですよ。
伊藤監督 真顔で「なにか飲むか?」という言い方が面白かったんじゃないですかね。すごく怒ってたのに、怒りを急に鎮めてリアクションしているのが。一応、コンテ上はギャグのつもりで書いたので、ちゃんと笑ってもらえて良かったですよ。ホッとしました。




――ほかにも国民性や文化の違いを感じたところはありましたか?

伊藤監督 キリトが記憶を失いつつあるアスナの部屋に行って、彼女の日記を見つけてしまうシーンですかね。外国の方からは、「人の日記を読むと殺されるぞ!」という話をよくされました(笑)。あんなことは許されないと。
川原先生 日本以上に、プライバシーを大事にしますからね。
伊藤監督 しかも、お茶を持って部屋に戻ってきたアスナが後ろに立ってて……観客が全員、「おい!大丈夫か!?」みたい空気に(笑) あそこもかなり、笑いに包まれてました。
川原先生 日記のシーンは、僕ももう一工夫しようかと思ったんですよ。手書きの日記じゃなく、データ的なものが急に表示されちゃうとか、『SAO』らしい工夫ができる余地があると思ったんですけど……最初にアスナが日記を書くシーンで、あの深刻な状況でキーボードで日記を打ち込んでるのは、なんか違う。やはりペンで書かせたかったですね。日記を見ちゃうシーンは、たしかに僕も「わーっ! わーっ!」と思いましたけど(笑)……あれはアスナの部屋がハイテク過ぎるのがいけない。勝手に引き出しが開くのが悪い。日記が出てきちゃったからしょうがない。
伊藤監督 うん、しょうがない。
一同 (爆笑)



川原先生 あと、笑いの違いを感じたのはラストバトルですね。助けにきたリーファの胸の谷間からユイがぽよーんと出てくるところで、日本は「クスクス」くらいだったんですけど、海外は大爆笑でした。ああいうちょっとセクシャルな演出は、海外ではやりづらいんじゃないのかな?と思ってました。
伊藤監督 それは、アクションシーンを描いた鹿間(貴裕)さんのアイディアですね。鹿間さんがそうしてきたので、面白いからいいやと思って(笑)
川原先生 たぶん、海外では新鮮な演出だったんでしょうね。ハリウッド映画で、あまりおっぱいギャグは見ないですから。ポリティカル・コレクトネスに引っかかるわけではないと思いますが、珍しかったのかな。
伊藤監督 ちょっと古い演出に見えたのが、面白かったのかも知れないですね。洋画でいうと70年代の『007』シリーズに出てきそうなネタ感覚で。日本で言えば峰不二子的な……レザーのボディスーツやドレスの胸元から、じつは宝石をここに隠してたのよ、みたいな(笑)。そこが若い人にとっては新鮮なのかもしれないですね。





日本だけでウケる表現はしないようにと、ずっと心掛けているんです。


――ちなみに、制作中は海外での公開というのは意識されていたのですか?

川原先生 いや、全く意識しませんでしたね。
伊藤監督 俺はもともと、日本だけでウケる表現はしないようにと、ずっと心掛けているんです。突然マンガ顔になったりしないとか、デカい汗が出たりしないとか。そういう表現は、日本のアニメやマンガが培ってきた独特のものなので、海外の人が意図を読み解くには能力がいると思うんですよ。いきなり出てきたけど、これはなんだ?と思われる。なのでTVシリーズも第1期のときから、ゲーム内のシーンでゲームオブジェクトと勘違いされないように、いわゆる“漫符”は出さないようにしようと決めたんです。


――顔に汗マークや怒りマークを描かない、怒っても湯気を立てない。

伊藤監督 そうですね。逆にそういう表現を排除したから、みんなが観やすかったのかなとも思います。万国の人が誰でも理解できる見え方は心掛けていました。

――先ほどのアスナの日記ではないですが、国によっては表現の禁則事項も多々あるかと思いますが?

伊藤監督 それはありましたね。イスラム文化圏は顔から下は肌色を出しちゃいけなかったり。それはさすがに厳しいなと(笑)。お風呂シーンなんて、本当にそのままではダメなので、相当トリミングしています。しかもそれを言われたのが完成直前だったので、現場は大変でした。もう、始めから言っておいてくれよ、と!(怒)
川原先生 イスラム文化圏というと、どこで公開されているんですか?
伊藤監督 ドバイやインドネシア、フィリピンあたりでしょうか。もしかしたら、中国版もそっちのほうかも知れないですね。






映画館でご覧になった方ももう一度、じっくり楽しんでいただきたいですね。
きっと、いろいろなシーンで、劇場で観たときと印象が違うと感じるところがあると思います。


――日本でも、アスナの入浴シーンは劇場公開版はマイルドにされていましたが、今回発売されるパッケージ版では……?

伊藤監督 そうですね。ここで多くは語りませんが、俺はパッケージ版データをちゃんと確認しましたので、ご安心ください。

――というお楽しみも含めて、パッケージ版だからこそ楽しめるポイントを、この機会におふたりからぜひ!

川原先生 まず、一時停止やコマ送り、巻き戻しができるというのが嬉しいですよね。映画館では詳しく読めなかった仮想デスクトップの情報を、僕もちゃんと読みたい(笑)
伊藤監督 映像としても、なにげに劇場公開版から100カットほど撮り直しているんですよ。撮影監督からぜひ直したい、エフェクトをもっとうまく調整したいと要望が出た箇所が、200カットくらいあったんですけど、さすがにそれは多すぎるから減らしてくれと言いました(笑)。それでも結局、100カット以上は変わっています。音響もダビングし直しましたし、ずっとTVCMでかかっていた、キリトがラスボスに二刀流の最後の一発を決めるカットも変わっているので、映画館でご覧になった方ももう一度、じっくり楽しんでいただきたいですね。きっと、いろいろなシーンで、劇場で観たときと印象が違うと感じるところがあると思います。
川原先生 やっぱり、アクションシーンは全部、舐めるように観たいですよね。ラストバトルももちろん。あの戦いは相当スピーディーでしたから、一時停止やスロー再生を駆使して堪能したいです。ただ、パッケージ版で残念なのは、音響監督の岩浪(美和)さんがものすごく音にこだわって、音響を作りこんでくださっていたので、家ではそのまま再現できないことくらいですかね。





――たしかにそうですね。でも音響をじっくり楽しめるのはパッケージ版ならでは。ヘッドホンのステレオ環境でも、バーチャルとリアルの状況の違いで音が変わるなど、音響のこだわりが伝わってきましたから。

伊藤監督 そうですね。製品盤ではヘッドホンでも疑似5.1chが聴ける仕様になると聞きましたので、より体感できますね。岩浪さん自身、劇場公開時も音響調整のために全国の映画館を飛び回っていましたからね。疑似9.1chシステムがある映画館などは、セリフの分解度がとてもいいんですよ。エイジがキリトくんを投げとばすときに「コングラッチュレーション」と言う場面も、「あ、超聞こえる!」と(笑)。小屋でリズベットとシリカが裏でわちゃわちゃ喋っているところも、スピーカーが2個だと何を話しているかよく分からないんですが、7.1chくらいあるとよく聞こえるんです。おかげで「口パクがずれてますよ」という指摘を受けるほどで。そこはパッケージ版でしっかり直してあります。
川原先生 そこまで映画が音響にこだわるなら、いっそドルビーアトモス環境を自宅に作りたい!と思う方が出てきてもおかしくないですね。『OS』も疑似5.1chといわず、8.1ch、9.1ch版も収録してくれないかと(笑)
伊藤監督 また作り直さなきゃ(笑)
川原先生 最終的には、ドルビーアトモス版の4K Blu-rayをいつか作っていただければと、アニプレックスさんにはお願いしたい。僕は待ちます!(笑)


Post date : 02/10/2017
interview & text : Mika Abe




Profile

川原 礫(かわはら れき)

原作・脚本。
主な作品に『アクセル・ワールド』、『絶対ナル 孤独者 《アイソレータ》 』(すべて電撃文庫、KADOKAWAアスキー・メディアワークス刊)。

伊藤 智彦(いとう ともひこ)

監督・脚本。
主な作品に『僕だけがいない街』(監督・絵コンテ・演出)、『銀の匙 Silver Spoon』(監督※1期のみ・音響監督)など。